村上 寛著、ちくま新書、2025年6月刊 著者は、1981年生まれ、早稲田大学大学院文学研究科で博士(文学)。立教大学、明治学院大学、早稲田大学で講師。人文知のプラットホーム「クエス」代表で、ラテン語の講座を開講しています。専門は西洋中世思想。著書も多数あります
ラテン語は、もともと現在のイタリアの、ラテイウムと呼ばれた中央西部地方で、古代から話されていた一地方言語でした。その地域の人々がローマ帝国を築き、最盛期には北はイギリスのスコットランドから、イベリア半島、フランス、ドイツ、オーストリア、ルーマニア、トルコ、北アフリカにまで領土を拡大しました。ラテン語はその公用語になって世界に広まり、西ローマ帝国崩壊後も、キリスト教と結びついて、普遍的公用語としての地位を築きました。しかし近世以降は、主要言語としての地位を失い、非実用的な「教養語」となって現代に至っています。本書は、死語となった「世界最強言語」の、2千年余りに及ぶ歴史と、数奇な運命に迫っています。
ローマが建国されたと言われる前8世紀ころ、ラテイウム地方のエトルリア人が、ギリシャ人からアルファベットを取り入れ、独自の文字文化を形成していました。ローマはこれを吸収して、自らも当時地中海世界の覇者だったギリシャに学び、その文学作品であるオデュッセイアの韻律に魅了されました。前3世紀以降、ローマは100年をかけてカルタゴを滅ぼし、ギリシャを支配していたマケドニアにも勝利して、ローマはギリシャを、政治的、軍事的にも完全に支配下におくことになりました。しかしギリシャ文化の力は偉大で、ローマの若者たちのギリシャ留学は続いたのです。
彼らは、散文ラテン語を洗練させ、詩歌から哲学・思想にまで展開・完成させてゆきます。その中心的役割を果たしたのは、希代の弁論家キケロでした。ラテン語は、2世紀末ころから初期キリスト教の司祭たちが使うと、中世には古典教養の土壌としてラテン語の地位は最盛期に達します。しかし、ゲルマン民族が起こり、各地方でも地域ごとの話言葉を重用するようになると、ラテン語は次第に衰退してゆきました。
このラテン語の直接の子孫は、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語などの、いわゆるロマンス諸語です。そして現在、ラテン語を話す国は、バチカン以外、どこにもありません。ただラテンという言葉は、中南米の国々の総称として生きています。大航海時代の新大陸で、イギリス系の北アメリカに対抗して用いられました。ラテンアメリカ、ラテンミュージックなどは、皆さんおなじみでしょう。
一方、ラテン文字はアルファベットとして、英語も含めて広く現在に生きています。日本にも16世紀末、キリスト教の宣教師が、ローマ字として伝えていました。
ラテン語自体も、湘南ベルマーレ、ベネッセ、メルカリ、学術用語では、ホモ・サピエンスなど動植物の学名や医学用語、法律用語にも使われています。なお、日本の大学では現在、ラテン語は根強い人気があるそうです。これは意外でしたね。「了」
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